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岡山地方裁判所津山支部 昭和63年(ワ)117号 判決 1990年2月27日

原告

鳥取邦江

被告

岸本秀樹

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金八一万六六九四円及び内金七一万六六九四円に対する昭和六三年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴外費用はこれを一〇分し、その九を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金九〇七万八〇〇〇円及び内金八二七万八〇〇〇円に対する昭和六三年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六二年一二月一二日午後二時ころ、原告の子供鳥取かおりが運転する同人保有の小型普通乗用車に同乗し、津山市山北所在のスーパーマーケツト・マルシン山北店駐車場において停車していたところ、被告山本吉民が保有しかつ運行の用に供している普通乗用車を被告岸本秀樹が運転し右駐車場でバツク中、被告岸本秀樹が周囲の確認を怠つたため、右小型普通乗用車の右前部に接触、頸部捻挫の傷害を蒙つた。

2  原告は、右傷害により、昭和六二年一二月一三日から昭和六三年六月一〇日まで平野病院に通院(通院実日数八〇日)した。右病院では症状固定したということであつたが、どうしても我慢できないので近光整形で診断を受けたところ、神経症状が残つておりいまだ治療の必要があるというので現在右病院で治療を継続している。右通院は同年七月四日、同年八月八日、同月一九日、同月二二日、同月二六日、同年九月五日の計五回である。

3  原告は、津山市小原でスナツクを経営していたところ、本件事故のため昭和六二年一二月一三日から昭和六三年二月中旬まで店を閉め、同月中旬から子供と女子アルバイトの二人で店を開いて現在に至つている。店のお客は自衛隊、市役所、自営業の人々で客筋もよく、年令的には原告がある程度の年令なので年配の人が多く、本件事故に遭うまでは客が切れることもなく良く繁昌していたものである。

<1> 原告の所得については、一二月と一月を除いた通常の月の所得が、平均すると少なく見積もつても経費を差し引いて金三五万円程度になる。

<2> 一二月と一月は店の書き入れ時で、通常の月の五割増しになる。これは忘年会、新年宴会などがあるためである。以上はクリスマス券の販売を加味してである。

そうすると、昭和六二年一二月は一八日分として金三二万円、昭和六三年一月は金五二万五〇〇〇円、昭和六三年二月は二〇日営業していないので、金三〇万円の損失となる。

<3> 昭和六三年二月以降

同年二月分の店の赤字 金五万七三二九円と、

三五万円の損失 計金四〇万七三二九円。

同年三月分の店の赤字 金三万四〇三一円と、

三五万円の損失 計金三八万四〇三一円。

同年四月分の損失 金三五万円。

同年五月分も赤字で経営しているので、

一応五月分の損失 金三五万円。

以上の損失は合計金二六三万六三六〇円である。

4  昭和六三年六月一〇日に症状固定し一二級に該当するので、労働能力の喪失は一〇〇分の一四であり、症状固定時満五六歳であるので就労可能年数は一一年である。

したがつて、後遺症による逸失利益は三五万円×一二×〇・一四(労働能力喪失率)×八・五九〇一(新ホフマン係数)=五〇五万〇九七八円である。

5  原告は、店を昭和六三年二月以降子供らに任せて、家のことをぼつぼつしたり夕方になつてからは横になつている状況である。店ができる状況ではない。原告は、従前極めて健康体であつて、肩がこつたり首が痛かつたということはない。家事で洗濯と炊事位で、掃除機が使用できない状況である。現在も首が右に曲がつている。以上の状況を考えて、原告の通院並びに後遺症による慰謝料額に金三五〇万円を下らない。

6  通院中の雑費

通院中のタクシー代 金七万一七〇〇円

平野病院治療費等

昭和六二年一二月一三日 金三四一〇円

同月一四日 金二三四〇円

同月一五日 金三二七〇円

同月一六日 金八三〇円

合計 金九八五〇円

7  弁護士費用 金八〇万円

8  以上合計金一二〇六万八八八八円となるが、右の損害のうち、被告からは昭和六二年一二月一八日に金一二五万円を受領し、昭和六三年一月、同年二月、同年三月、同年四月各金三六万円、五月分として金三〇万円(合計金一七四万円)を得たので、右受領額を差引いた損害金九〇七万八八八八円が損害となるが、右金員のうち金九〇七万八〇〇〇円の支払を求め、更に、弁護士費用の金八〇万円を差し引いた残額金八二七万八〇〇〇円に対して、訴状送達の翌日である昭和六三年八月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  1は認める。

2  2のうち、各通院の事実は認める。ただし、近光整形への通院治療は本件事故とは因果関係がない。

3  3のうち、前文不知。<1>は争う。<2>は否認。<3>不知。

4  4のうち、後遺障害の存在は否認。その余は不知。

5  5は、争う。

6  6は、不知。なお、タクシー代は本件事故と因果関係ある損害とはならない。

7  7は、金額について争う。

8  8のうち、金二九九万円の支払いは認める。その余は争う。

三  被告の反論

1  事故の態様について

本件事故により、原告が乗車していた車両の被つた損害は、前部バンパーとフエンダーにわずかなへこみのみであり、その修理費用も塗装代も込めて金一万八〇〇〇円である。本件事故は、スーパーマーケツトの駐車場において停止している原告乗用車両に方向を転換しようとして後進した被告車両が衝突したものである。原告の受けた衝撃もごく小さいものである。

2  逸失利益について

(一) 原告の所得は証拠によるも明確でなく、そうである以上、仮に平均賃金によるとすれば、月額一九万一〇〇〇円となる。

(二) 仮に原告提出の証拠によるも、本件事故前三ケ月の純収益の平均(金一〇万六三七八円)にいわゆる給料分の二五万円を加えて三〇日で除した金一万一八七九円が一日の得べかりし収入となるべきである。

しかして、原告の治療状況はいわゆる保存的療法に終始しており、通院も本件事故直後でも二日に一回程度であり、本件事故との因果関係ある休業期間は実通院日数(八〇日)程度であり、結局、休業損害は金九五万〇三二〇円となる。

(三) また、原告の治療内容には、本件事故による傷害のみならず、いわゆる加令的要因により生じた傷害の治療もあるというべきである。

3  後遺障害について

(一) 原告には損害算定に考慮すべき後遺障害は存在しない。

(二) 他覚症状の「棘の形成、前弯の消失」は加令的要因に基づくものであり、本件事故とは関係ない。

(三) 自賠責保険岡山調査事務所は、原告の症状について、後遺障害に該らないと認定している。

第三証拠

記録中の証拠目録記載のとおり

理由

一  請求原因1は当事者間に争いがない。

二  請求原因2のうち、原告が昭和六二年一二月一三日から昭和六三年六月一〇日まで平野病院に頸部捻挫のため通院したことは、当事者間に争いがない。

三  原告の休業損害について検討する。

1  原告の通常月の純所得については、確たる証拠を見出し難いが、原告本人尋問の結果(第一回)中には、「二〇万から三〇万はある。」(第三回期日の調書六五項)という供述もあり、控えめに考慮して、右月純所得は少なくとも金二〇万円を下らないものと認める。

一二月、一月については、右結果中に、要するに「忘年会、新年会などの入る店の書き入れ時であり、他の月の五割増しとなる。」という趣旨の供述があるか、右は常識的に考えて肯認出来る。したがつて、これら月の純所得は金三〇万円と認める。

次に、右原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、前記通院期間中原告の身体の故障は店の仕事をするのに支障のあるものであり、現に原告自身は休業状態であつたと認められるから、右期間を休業期間とみるべきである。

2  以上に基づき、休業損害を算出すると次のとおりとなる。

<1>  昭和六二年一二月分 金一八万三八六三円

300,000万÷31日≒9,677万

9,677円×19日=183,863円

(原告主張の18日は誤記と認める。)

<2>  昭和六三年一月分 金三〇万円

<3>  同年二月から五月分 金八〇万円

前記原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告はこの間も無所得と認められるが、原告において本件事故による受傷なかりせば、従前どおり少なくとも月二〇万円の純所得を得ていたものと考えられる(なお、同年二月分についての原告の主張は損失を二重計上しているのでないかと思料されるが、その主張どおり認容する訳ではないので、この点はひとまず措く。)。したがつて、

200,000円×4月=800,000円

以上合計 金一二八万三八六三円

3  次に、前記原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、昭和六三年二月二〇日から原告の子供らによつて店が再開され、同年二月は金五万七三三九円(原告主張の五万七三二九円は誤記と認める。)、同年三月は金三万四〇三一円の各赤字を出し、結局においてこれを原告が負担していることが認められるところ、これらは原告の本件受傷のための長期間の閉店による客離れやいわゆるママである原告の欠勤等によるものと常識上推認することができ、結局、右赤字合計金九万一三七〇円も本件事故と相当因果関係ある損害といえる。

四  原告の後遺症による逸失利益について検討する。

1  いずれも成立に争いない甲七、八号証、証人近光利樹の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)及び弁論の全趣旨によれば、原告が右頸部痛、右手痺れ、右握力低下等の後遺障害を残して、昭和六三年六月一〇日症状固定したことが認められるが、原本の存在・成立とも争いない乙一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件は駐車場での車移動時の事故であつてその衝撃もさほど多大なものであつたとは認め難いこと、右近光証人は原告の後遺障害については一四級と証言し、原告本人尋問の結果(第二回)によつても、平野病院医師も一三級から一四級程度と言つていたと認められることなどにも鑑みると、原告の後遺障害の程度としては、一四級程度が相当と認めるべきである。

原告が右症状固定時満五六歳であり、就労可能年数が一一年であることは、当裁判所に顕著である。

2  したがつて、原告の後遺症による逸失利益は、次のとおりとなる。

(200,000円×10月+300,000円×2月)×0.05(労働能力喪失率)×8,590(新ホフマン係)=1,116,700円

金一一一万六七〇〇円

五1  傷害(通院加療)慰謝料は、本件傷害の態様、実通院日数等諸般の事情を考慮し、金六五万円が相当と認める。

2  後遺症慰謝料については、本件後遺障害の程度その他諸般の事情を考慮し、金七五万円が相当と認める。

六  成立に争いない甲一四号証の一ないし四及び原告本人尋問の結果(第二回)によれば、原告は平野病院に治療費等として金九八五〇円を支払つていることが認められる。

なお、タクシー代は、原告の傷害の程度等諸事情に鑑み、相当因果関係を認め難い。

七  ところで、前記甲七号証及び近光証言によれば、原告には第六、七頸椎に加令的変成と認められる骨棘が存する等の事情があり、これが本件傷害の発生、継続、後遺障害としての存続に少なからず寄与していることが窺われる。もつとも、近光証言によれば、原告の骨格の老化退行変成はさほどひどいものではないこと、骨棘もあるといえばあるという程度であることも認められるので、右加令的変成の寄与は五パーセント程度と認めるのが相当である。

したがつて、原告の本件事故と相当因果関係ある損害は、前記一ないし六認定の損害合計金三九〇万一七八三円の九五パーセントである金三七〇万六六九四円と認めるべきである。

八  原告が既に金二九九万円の支払を受けていることは、当事者間に争いがない。

したがつて、原告の損害残額は、結局、金七一万六六九四円となる。

九  弁護士費用については、本件事案の態様、認容額等諸般の事情に鑑み、金一〇万円が相当と認める。

一〇  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らに対して各自、損害賠償金一八一万六六九四円及び内金七一万六六九四円に対する不法行為の後である昭和六三年八月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文、一九六条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤拓)

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